
前立腺肥大症は、30代後半から前立腺の尿道周囲腺が筋繊維性の塊として徐々に大きくなり、結果として尿道を締め付けるようになり、排尿障害をきたします。多くの場合は、αブロッカーといわれる薬でコントロール可能ですが、進行すれば、ご本人の意識とは別に、残尿が増え、いずれは腎機能障害を起こします。主な自覚症状は、出始めまでに時間がかかる、排尿時間が長い、尿の切れが悪い、尿が近いなどです。お薬でこれらの症状や残尿などが改善しない場合には、内視鏡手術等の積極的治療が必要になります。
主な治療法は、内視鏡手術と尿道ステントです。肥大した組織の塊を取り除く標準的手術法としては、電気メス(高周波)を使用した経尿道的内視鏡切除術(TUR-Pといいます)が行われます。この手術の大きな欠点は、大きさに比例して出血が増え輸血が必要になること、術中洗浄液による血液希釈と、それに起因する症状が循環系に大きな負担となることなどです。
およそ10年前より、ホルミウム・ヤグ・レーザー前立腺核出術(HoLEPといいます)が始められました。当院でも7年前より本法を導入しています。ホルミウム・ヤグ・レーザーは水に吸収されやすく、組織の深い部分には影響が少なく、表面を止血しながら切開できるという特徴をもっています。前立腺肥大症では、切除すべき肥大組織と残すべき本来の前立腺組織(外腺ないしは外科的被膜)はみかんの実と皮の様な関係で、その間には剥がれやすく出血の少ない層があります。この層に沿って、このレーザーを使い肥大組織を核出することで、無理なく肥大した前立腺を取り除くことができます。核出した前立腺組織の塊はモーセレーター(粉砕器)ないしは電気メスを用いて、細かく裁断して除去します。すでに遊離した肥大組織ですので、この際には出血はしません。すべての手術行程は、生理食塩水という体に影響の少ない液を還流しながら行いますので、多少吸収されても安全です。取り出した組織は、癌細胞などが含まれていないか病理組織検査に提出します。切除後は、膀胱の洗浄もできるバルーン・カテーテルを膀胱まで挿入し手術を終えます。この手術は、大出血の危険がなく、血液希釈も全く起こりませんので、より大きな前立腺肥大、あるいは循環器や呼吸器などに障害があって従来の内視鏡手術が行えなかった患者さんにも適応範囲が広がりました。
また、上記のHoLEPに加えて、経尿道的バイポーラー核出術(TUEB)も当院では行っています。これは、先ほどのHoLEPと切除・剥離の考え方は同じですが、レーザーの代わりに、より汎用性のあるバイポーラー電気メスを使用する点が異なります。TUEBも同じく肥大した組織を核出してから粉砕して取り出すことは全く同じですし、使用する液も生理食塩水で同じです。
これらの新しい前立腺核出術はある程度大きな前立腺の方が安全で、小さな前立腺(切除量で10G以下)の場合には、大きな利点となりません。それらに対してはTUR-Pで良いのですが、当院では従来の高周波メス(TUR-P)ではなく、生理食塩水で行える、より合併症の少ないバイポーラー切除を行っており、安全性を高めています。
この様に、前立腺の大きさ、炎症の有無、患者さまの年齢やお体の状態など、色々な条件に対して最適な治療法が選べるようにしています。前立腺肥大の手術を考えておられる患者さんは是非一度ご相談下さい。
図4 HoLEPの手技(前立腺の核出法)